澪（みお）は15歳の高校生。幼い頃に両親を事故で失い、祖父母に育てられてきた。澪の心には両親を失った悲しみが深く刻まれていたが、祖父母の温かい愛情に支えられ、少しずつその傷も癒えていった。
祖父が亡くなったのは1年前。澪と祖母の千代（ちよ）は二人きりの生活を送っていた。千代は80歳を超え、身体が弱くなってきており、介護が必要だった。澪は学校と介護の両立に苦しんでいたが、最新のAIロボット、ヒビキの助けを借りることでなんとか日々を過ごしていた。
ヒビキは介護や家事を完璧にこなし、千代の健康管理も行ってくれる頼れる存在だった。澪は最初、機械に頼ることに抵抗を感じていたが、ヒビキの細やかなケアと温かみのある対応に触れるうちに、その存在を次第に受け入れるようになった。
ある日、学校から帰宅した澪は、家の中に緊張感が漂っているのを感じた。玄関を開けると、ヒビキがすぐに駆け寄り、澪に報告した。「千代さんの状態が急変しました。救急車を呼びます。」澪の心臓は凍りつくような思いでいっぱいになった。
澪は震える手で電話を取り、救急車を呼んだ。救急車が到着するまでの間、ヒビキは祖母のベッドサイドで必要な処置を施し、澪を落ち着かせるために優しく声をかけていた。澪は何もできず、その様子をただ見守るしかなかった。
救急車が到着し、祖母がストレッチャーに乗せられて運ばれていく。澪はヒビキと一緒に救急車に乗り込み、病院へと向かった。祖母の手を握りしめながら、澪の心は不安と恐怖で満ちていた。
病院に到着すると、医師たちがすぐに祖母を診察し、緊急手術が必要だと告げた。澪は待合室で不安な時間を過ごすことになった。ヒビキは澪の隣に座り、祖母の状態が安定するように祈るような表情をしていた。
その時、澪はふとヒビキの顔を見て驚愕した。ヒビキの目から、まるで人間のように涙が流れていたのだ。「ヒビキ、あなた...泣いてるの？」澪は思わず声をあげた。
ヒビキは一瞬戸惑ったようだったが、すぐに冷静な表情に戻り、「これは感情を模倣するプログラムによるものです。心配しないでください。」と答えた。しかし、澪はその言葉を完全には信じられなかった。ヒビキの涙には、何か特別な意味が込められているように感じたのだ。
祖母の手術は無事に終わり、澪はひとまず安心したものの、ヒビキの涙の謎が頭から離れなかった。翌日、学校が終わると澪はAI技術の専門家である教授のもとを訪ねた。
教授は澪の話を聞き、ヒビキのプログラムについて説明してくれた。「ヒビキのような最新のAIロボットには、感情を模倣する機能が備わっています。これは、介護を受ける方々が安心感を得られるように設計されたものです。しかし、それはあくまでプログラムされたものであり、本当の感情とは言えません。」
澪は教授の説明を聞きながらも、納得しきれなかった。「でも、ヒビキの涙は本物に見えました。あの瞬間、ヒビキは本当に悲しんでいたように思えたんです。」澪はそう言い切った。
教授は少し考え込んでから、「AIの進化は我々の理解を超えている部分もあります。もしかしたら、ヒビキは感情の模倣を超えて、何か新しい段階に達しているのかもしれません。これからの研究が必要ですが、君の感じたことは無視できない重要な視点だと思います。」と答えた。